1. 基本的な仕訳原則
ファクタリングは売掛金の売買(債権譲渡)なので、会計処理上は「売掛金の消滅」と「現金の増加」、そして差額の「売上債権売却損」を計上するのが基本です。債権は譲り渡すことができ(民法466条1項)、財産権を移して代金を受け取る契約が売買です(民法555条)。会計基準では、売掛金(金融資産)の契約上の権利に対する支配が買取会社に移ったときに売掛金の消滅を認識し、帳簿価額と受け取る対価の差額を当期の損益にします(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第8項・第11項)。
使用する勘定科目
- 売掛金: 消滅させる資産
- 現金・預金: 受け取る資産
- 売上債権売却損(または「支払手数料」): ファクタリング手数料
- 未収入金: 入金タイミングが異なる場合の経過勘定
基本の仕訳パターン
売掛金100万円を手数料10%でファクタリング(即日全額入金):
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 900,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
| 売上債権売却損 | 100,000 |
この仕訳で売掛金が消滅し、現金が増加、手数料が費用計上されます。
保証型の場合 — 売掛金は売らない
買取型に対して、保証型ファクタリングは売掛金を売らず、売掛先が支払えなくなったときにファクタリング会社から保証金を受け取る契約です(仕組みは買取型・保証型・ABLの違い)。売掛金は入金まで貸借対照表に残り、手元の資金も増えないため、仕訳は「保証料の支払い」と「入金・保証金の受け取り」に分かれます。売掛金100万円に保証をかけた場合の例です(金額は仕訳の形を示すためのものです)。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ① 保証料を支払ったとき | |||
| 支払保証料 | 10,000 | 現金預金 | 10,000 |
| ② 売掛先から期日に入金されたとき | |||
| 現金預金 | 1,000,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
| ③ 売掛先が支払えず、ファクタリング会社から保証金を受け取ったとき(全額が保証の対象の場合) | |||
| 現金預金 | 1,000,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
保証料は「支払保証料」などの費用とし、期末に保証期間が翌期まで残っていれば、その分を前払費用にします(移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」第137項)。会計基準の扱いは、企業会計基準を適用する会社の場合です。中小企業の会計処理は顧問税理士と確認してください。売掛先の支払いを保証する契約の保証料は、信用の保証料として消費税の非課税取引です(消費税法基本通達 6-3-1(2)、国税庁タックスアンサーNo.6201の「信用保証料」)。契約の形や別建ての事務手数料によって扱いが変わることがあるため、請求書の課税区分を確認してください。保証の範囲を超えて回収できない部分は売掛金として残るので、貸倒れとして処理する時期は税理士と確認します。
2. 2社間ファクタリングの仕訳
2社間方式は集金代行があるため、入金タイミングが2段階に分かれます。次の仕訳は売却として処理できる場合のもので、企業会計基準を適用する会社で売却として処理するための条件(第三者対抗要件など)は5. 決算書への反映で説明しています。
ステップ1: ファクタリング会社からの入金時
売掛金100万円、手数料10%の場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 900,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
| 売上債権売却損 | 100,000 |
ステップ2: 売掛先から事業者に入金時
集金代行として受領した金額
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000,000 | 預り金 | 1,000,000 |
ステップ3: ファクタリング会社への送金時
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金 | 1,000,000 | 現金預金 | 1,000,000 |
集金から送金までの期間は「預り金」で管理するのがポイントです。
3. 3社間ファクタリングの仕訳
3社間方式は売掛金が直接ファクタリング会社に入金されるため、仕訳はシンプルです。
ファクタリング会社からの入金時
売掛金500万円、手数料3%の場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 4,850,000 | 売掛金 | 5,000,000 |
| 売上債権売却損 | 150,000 |
3社間は売掛先からの入金を経由しないため、集金・預り金の処理が不要でシンプルです。
譲渡損の科目選択
差額は売掛金を売ったことによる損失なので「売上債権売却損」とすると内容が伝わりやすいですが、実務的には「支払手数料」「雑損失」「債権譲渡損」と記帳する例もあります。継続性の観点から、自社のルールを決めて統一するのが推奨されます。
4. 消費税・税務処理
消費税の扱い
ファクタリング(金銭債権の譲渡)は消費税の非課税取引です(消費税法第6条第1項・別表第二第2号(金銭債権は消費税法施行令9条1項4号)、国税庁タックスアンサーNo.6201)。額面と買取額の差額として設定される手数料も、消費税法基本通達 6-3-1(10)が「金銭債権の買取又は立替払に係る差益」を非課税としているため、一般に消費税は課されない扱いです。No.6201は手数料の課税区分を個別に明記していないため、事務手数料などを別建てで請求される場合は請求書の課税区分を確認してください。
非課税の根拠条文、売却損の経費計上、確定申告での扱いはファクタリングと消費税・税務の扱いで整理しています。
- 売掛金の譲渡: 非課税
- ファクタリング手数料: 一般に消費税は課されない扱い(別建て請求分は要確認)
- 事務手数料: 課税対象の場合あり(会社による)
- 司法書士報酬: 課税対象
法人税・所得税への影響
- 売上債権売却損は、法人は損金(法人税法22条3項・4項)、個人事業主は事業所得の必要経費(所得税法37条1項)に算入します
- ただし親子会社や役員の会社など特別な関係のある相手に、通常より低い代金(高い手数料)で売った場合、差額のうち実質的に贈与と認められる部分は寄附金に含まれ、損金にできない部分が生じることがあります(法人税法37条1項・2項・7項・8項)
消費税の計算への影響(簡易課税・課税売上割合)
簡易課税適用事業者の場合、ファクタリングによる売上債権売却損は消費税計算に直接影響しません。簡易課税は売上げに係る消費税額にみなし仕入率を掛けて仕入れに係る消費税額を計算する制度で(国税庁タックスアンサーNo.6505)、通常の売上から消費税を計算します。
原則課税で課税売上割合を計算する場合も、自社の売上の代金として取得した売掛金の譲渡は、総売上高・課税売上高のどちらにも含めません(消費税法施行令48条2項2号、国税庁タックスアンサーNo.6405)。
5. 決算書への反映
ここでは償還請求権なし(ノンリコース)の買取型で、売却として処理できる場合を前提にします。企業会計基準を適用する会社では、売却として処理するには企業会計基準第10号第9項の3つの要件をすべて満たす必要があります。そのうち、買い取った会社の権利が売主とその債権者から法的に保全されていること(同項(1))には、債権譲渡登記や確定日付のある通知・承諾で第三者対抗要件を備えていることが必要で、具備を留保する取引(登記をしない2社間取引など)はこの要件を満たしません(移管指針第9号第31項・第246項・第247項)。保証型は売掛金を売らないため、入金まで売掛金が残ります(1. 基本的な仕訳原則)。
貸借対照表(B/S)への影響
- 売掛金(資産)が減少
- 現金預金(資産)が増加
- 負債は変化しない → オフバランス化
- 手数料分だけ純資産が減少(利益経由)
損益計算書(P/L)への影響
- 売上債権売却損を計上(営業外費用に表示する例が多い)
- 経常利益・税引前利益が手数料分だけ減少
キャッシュフロー計算書への影響
- 営業活動キャッシュフローがプラス
- 実質的に売掛金回収を前倒しした効果
償還請求権・買戻しがある契約の注意点
契約に買戻しや償還請求(リコース)の条件があると、会計でも法律でも扱いが変わります。
- 期日前に買い戻す権利と義務を実質的に持つ契約: 売掛金を担保にした借入れと実質的に同じ取引として、売掛金の消滅を認識せず、売買ではなく金融取引として処理します(企業会計基準第10号第9項(3)・第58項)
- 売掛先が支払わないときに買い戻す義務(リコース義務)が付く契約: 支配の移転の要件(同第9項)を満たせば売却として処理し、その義務は譲渡時の時価で負債に計上します(移管指針第9号第36項・第37項・設例2)
- 法律上の扱い: 集金を任された売主が集金できなかったときに債権を買い戻す、または自分の資金で支払う取引は、経済的に貸付けと同様の機能を持つものとして貸金業に該当するおそれがあります(金融庁 ファクタリングの利用に関する注意喚起)
会計基準の扱いは、企業会計基準を適用する会社の場合です。中小企業の会計処理は顧問税理士と確認してください。契約書で償還請求権・買戻しの条項を確かめる方法はファクタリング契約書のチェックポイントで整理しています。
監査上の注意点
- 期末時点で集金代行中の預り金は別勘定で管理
- 重要性により注記開示を検討
6. 手数料水準別・仕訳金額の早見表
仕訳で迷いやすいのが「売上債権売却損をいくら計上するか」です。当サイトのファクタリング99社スペック実測調査【2026年7月】では、手数料の下限を公示している63社の下限中央値は1.8%、上限を公示している34社の上限中央値は10.0%です(下限1%以下を掲げる会社も20社あります)。売掛金100万円を売却した場合の仕訳金額は次のとおりです。
| 手数料率 | 現金預金(入金額) | 売上債権売却損 | 99社実測調査(2026年7月)での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 1% | 990,000円 | 10,000円 | 手数料の下限1%以下を公示する会社(20社)の水準 |
| 1.8% | 982,000円 | 18,000円 | 手数料の下限を公示する63社の中央値 |
| 10% | 900,000円 | 100,000円 | 手数料の上限を公示する34社の中央値 |
手数料水準の詳しい相場は手数料の相場・早見表、費用項目の内訳は手数料の内訳解説を参照してください。
7. よくある質問
ファクタリング手数料は消費税課税?▼
金銭債権の譲渡は消費税法別表第二(有価証券等の譲渡・消費税法施行令9条1項4号・国税庁タックスアンサーNo.6201)で非課税取引とされ、額面との差額として設定される手数料本体も一般に消費税は課されない扱いです(No.6201は手数料の課税区分を個別に明記していないため、別建て請求分は請求書の課税区分で確認)。ただし関連する司法書士報酬(債権譲渡登記)・振込手数料などの付帯費用は課税対象になることがあります(郵便局など印紙の売渡し場所で収入印紙を買う取引は、No.6201のとおり非課税です)。請求書明細で課税・非課税を分けて記載する必要があり、税理士と仕訳を確認することを推奨します。
個人事業主の仕訳は法人と同じ?▼
基本は同じです。個人事業主は「支払手数料」科目で処理する例もあり、売却損(手数料)は事業所得の必要経費になります(所得税法37条1項)。青色申告の帳簿上も同じ考え方です。
決算直前のファクタリングは節税になる?▼
節税にはなりません。手数料は損金(個人事業主は必要経費)になるため課税所得は手数料の分だけ減りますが、減る税額は「手数料×税率」なので、支払う手数料より小さくなります。例:期末に売掛金1000万円をファクタリングして手数料50万円を払い、税率を仮に30%とすると、税は15万円減っても差し引き35万円の負担です。払った手数料の分だけ手元の資金も減るため、利用するかどうかは税ではなく資金繰りの必要で判断します。
個人事業主の仕訳例は?▼
例)100万円の売掛金を手数料10万円でファクタリング。仕訳は「(借)普通預金 90万円 /(貸)売掛金 90万円」+「(借)売上債権売却損 10万円 /(貸)売掛金 10万円」の2行(借方合計100万円=貸方 売掛金100万円)または「(借)普通預金 90万円・売上債権売却損 10万円 /(貸)売掛金 100万円」の1仕訳で処理。青色申告・白色申告いずれも同じ処理で、手数料は「売上債権売却損」または「支払手数料」科目で経費計上します。法人の複式簿記と基本同じです。
決算書への影響は?▼
損益計算書(P/L)には手数料が「売上債権売却損」として計上され、営業外費用に表示する例が多いです。償還請求権なし(ノンリコース)の買取型なら、貸借対照表(B/S)では売掛金が減って現金が増えるオフバランス処理で、負債は増えません(企業会計基準を適用する会社では、債権譲渡登記や確定日付のある通知・承諾で第三者対抗要件を備えていることも条件で、登記をしない2社間取引などは満たしません)。買戻しや償還請求の条件がある契約は、金融取引として処理したり、その義務を負債に計上したりすることがあります(5. 決算書への反映)。頻繁利用は損益圧迫の原因になるので、手数料総額の管理が重要です。
売上債権売却損と支払手数料の使い分け▼
売上債権売却損は「ファクタリングに特化した科目」で、会計上の表示が明瞭です。支払手数料は「汎用科目」で、銀行手数料等と合算される場合があり細目が不明瞭になります。監査対応・融資審査時の財務分析の観点からは、売上債権売却損を独立科目として使う方が透明性が高く推奨されます。税理士と仕訳方針を事前決定することが重要です。
消費税の仕入税額控除は?▼
非課税扱いのファクタリング手数料本体は課税仕入れに当たらないため、仕入税額控除の対象外です。付帯費用のうち司法書士報酬・振込手数料など課税されるものは課税仕入れで、控除には原則として一定の事項を記載した帳簿と適格請求書(インボイス)などの保存が必要です(国税庁タックスアンサーNo.6498)。適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れも、一定の要件を満たせば令和13年9月30日までは仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります(同)。事務手数料などを別建てで課税として請求される場合は、請求書の記載を確認してください。
法人税申告書への記載は?▼
法人税の申告は確定した決算に基づいて行うため(法人税法74条1項)、売上債権売却損は損益計算書の費用として当期利益に反映されたうえで、別表4(所得の金額の計算)に引き継がれます。通常の条件の取引であれば会計上の費用がそのまま損金になり(法人税法22条3項・4項)、別表4で加算・減算する調整は通常ありません。親子会社や役員の会社など特別な関係のある相手に通常より低い代金で売った場合は、差額のうち実質的に贈与と認められる部分が寄附金に含まれ、損金にできない部分が生じることがあります(法人税法37条1項・2項・7項・8項)。個別の処理は税理士と確認してください。
会計ソフトでの仕訳処理は?▼
会計ソフトでも、振替伝票などで「(借)現金預金・売上債権売却損/(貸)売掛金」と入力すれば処理できます。勘定科目の一覧に「売上債権売却損」がなければ科目を追加するか「支払手数料」を使い、毎回同じ科目で記帳します。2社間では、売掛先から入金があった日とファクタリング会社へ送金した日の「預り金」の仕訳も必要です。よく使う仕訳を登録できる機能があれば、これらをまとめて登録しておくと記帳漏れを防げます。
監査法人・税務調査での扱いは?▼
監査や税務調査で取引の内容を説明できるよう、①契約書②譲渡した債権の請求書③入金の記録④仕訳帳⑤債権譲渡通知書(3社間の場合)をそろえておきます。法人は、帳簿と、取引に関して作成・受領した書類(契約書・領収書など)を、確定申告書の提出期限の翌日から7年間(青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間)保存する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.5930)。売掛金が実在すること、手数料が取引条件に照らして妥当であることに加え、ファクタリング会社の商号・所在地を国税庁 法人番号公表サイトで確かめた記録があると、相手の実在を説明しやすくなります。
更新履歴
- 償還請求権なしの買取型を売却として処理する条件(企業会計基準を適用する会社では第三者対抗要件も必要)や相談窓口の案内など、出典より強く書いていた記述を一次資料に合わせて訂正
- 保証型で保証金を支払う側の表記をファクタリング会社にそろえ、保証料の会計処理に前提(企業会計基準を適用する会社の場合)を、金銭債権の非課税の根拠に消費税法施行令9条1項4号を追加、営業外費用の表示と個人事業主の勘定科目の記述を断定しない表現に修正
- 公的出典(e-Gov法令・企業会計基準委員会・国税庁・金融庁)を追加し、償還請求権・買戻しがある契約の会計処理、消費税(収入印紙の購入・課税売上割合・インボイスの経過措置)と法人税(損金・寄附金)の説明、よくある質問(節税・会計ソフト・税務調査)を出典に合わせて訂正、保証型の仕訳を追加
- 比較表にペイブリッジの行と公式の値を戻し(社数は会社単位で集計)、社数の母数を集計97社にそろえ、手書きの一覧・社数・内訳を会社データから再計算
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